海鳥が気持ちよさそうに空を泳いでいる。

波の音がとめどなく押しては返す。

教会の鐘の重く荘厳な音が鳴り

交易所や港の荷揚げ場から大きな声がぶつかり合い

市場開放の鐘が鳴り響く。

今日もマルセイユの一日が始まる。

マルセイユの

あたしの一日が

フランシーヌ「おはようございまーす!」

マスター「おはよう」

イレーヌ「おはよう、フランシーヌ」

フラ「今日もよろしくおねがいしまーす!」

あたしはいつもの様にお気に入りのエプロンを着用して表に出る。

外用のテーブルと椅子を用意して空を見上げた。

空は晴れていて潮風が気持ちいい。

今日も良い一日なりそうだな♪


<第一章 出会い フランシーヌ>

あたしの名前はフランシーヌ。

今は酒場の前で得意のお裁縫でお客さんのお洋服の修繕のお仕事をしている。

酒場に来たお客さんがお酒を楽しんでいる間にお洋服を少しのお代で修繕すると言うのは中々評判がいいみたい。

最近では酒場のお客さんだけじゃなく修繕だけで来てくれるお客さんも増えてきていて中々忙しかったりもする。

ただボーっと待っているお客さんを見兼ねたマスターがあたしのお客さんの為に紅茶の茶葉を
用意してくれたのでサービスをしている位だ。

マスターもイレーヌさんもあたしの為に本当によくしてくれる。

あたしは本当に幸運なんだと思う。

二人はあたしの家族だ。

親の居ないあたしの家族…。

あたしは幼い頃に両親を事故で亡くしていた。

7歳のあたしを拾ってくれたのがイレーヌさんだった。

泣いてうずくまっているあたしの横に座って手を取ってくれた日の事は今も忘れない。

何も持っていないあたしを拾って二人は面倒を見てくれた。

血の繋がりも何も無いあたしの為に…。

だからあたしは恩返しの為に家事のお手伝いをすることにした。

お部屋や酒場の掃除は勿論、お裁縫でお洋服を直したり。

お母さんがあたしに残してくれたお裁縫の仕方。

お母さんは勝気で活発な人だった。

「女の子は好きな人の物に触れただけでもドキドキしちゃう生き物なのよ」
「フランシーヌも好きな人が出来たら「ボタンが解れてるので直しますよ」って口実に使いなさいね」
「私もそれでお父さんを射止めたのよ♪」

と少しはにかみながらも嬉しそうに話してくれたお母さんの笑顔は今でもはっきりと思い出せる。

行動的だったお母さんが海を渡って自ら織物を仕入れ、仕立てるのでお値段が安いと評判の店だった。

あたしは新しい織物やお洋服を仕立てる姿を傍で見ているのが好きだった。

そんなお父さんとお母さんを乗せた船が嵐に遭って沈んでしまったのはもう7年も前の事。

イレーヌさんやマスターのお洋服を修繕するのがあたしは大好きだ。

好きな人のお洋服を繕う事。

お母さんが教えてくれた大事な事。

それをあたしがイレーヌさんに話したのが今の仕事をするきっかけになった。

イレ「縫製の勉強をするなら色んな服を見なさい。酒場は色んなお客様がいらっしゃるから丁度いいかも知れないわね」

そう教えてくれたのであたしはお部屋代稼ぎも兼ねて修繕のお仕事を始めたのだった。


フラ「お洋服の修繕いたしまーす。お気軽にお声掛けくださいねー♪」

おばさん「フランシーヌちゃん、おはよう。今日も元気ね」

フラ「あ、おばさんおはようございます♪エプロン大丈夫でした?」

おばさん「フランシーヌちゃんが直してくれて助かってるわ。しっかり繕えてるから長持ちしそうよ」

フラ「それは良かったですー♪また、何かあったら言って下さいねー」

あたしはおばさんに手を振って辺りを見渡してみた。

お酒の入っていた樽の上に小さな白い猫が丸まっている。

フラ「おはよう、シャルロッテ♪おいで」

あたしが声を掛けると白い猫はニャーと一つ鳴いて足元に擦り寄ってきた。

シャルロッテはあたしが最近拾ってきた猫でもう一人の家族とも言える。

いつかの自分の様にニーニーと鳴く白い猫をあたしは放っておけずマスターにお願いして一緒に住まわせてもらっている。

料理で使う為の魚を一匹マスターからもらってシャルロッテに与えるのもあたしの日課だった。

フラ「さ、お食べ♪…ふぅ、流石に朝からお酒を飲みに来る人は少ないよ」

はぐはぐと魚を齧るシャルロッテを撫でながらあたしは独り言を呟いて今度は広場に視線を移す。

人々は思い思いに忙しなく走り回っていた。

交易所に駆け込む人

フラ「レースカフスハンデラー可愛い♪」

ギルドの門を叩く人

フラ「おぉ、シャマールだ。お金持ちさん♪」

商館を訪ねる人

フラ「ジレって…服なのかな…」

いつものように朝はみんな忙しそうだ。

そんないつもと変わらない風景

いつもと変わらない時間

がやがやと人々が行き交う広場の中、ゆったりと歩く二人組の女性にあたしは目を奪われた。

一人の女性は提督さんが着ている服を着ていた。

そしてもう一人はペチコートを着て手に同じ様な服を持っていた。

それは静寂な夜空にも似た濃藍

袖には夜空を彩る星の様な金の刺繍

フラ「あ、あの人の服…なんだろ?ジュストコール、かな?でもあの色、見たこと無いけど…綺麗」

あたしは一目で釘付けにされていた。

見た事もない服、見た事もない色

もっと近くで見たい

触ってみたい

あたしはフラフラと吸い寄せられる様に歩み寄っていた。

これがあたしの運命を変える事になる出会いになるとはこの時、思ってもいなかった。

SS寄り